模写でなく思うように絵をかけたらいいな~と思うけれど、これが実に難しい。
ミジンコが3秒で人類に進化するぐらい難しい……
そこで、いろいろな参考書からパクったり自分で考えたりして、タイトル通りの目標を達成する方法を文字に残してみたのだった。
私もまだ自由に描ける境地に達してないので、新たな気付きがあればその都度加筆修正する予定だったり。
1.そもそも絵を描く能力とは
いきなり参考書を持ち出して恐縮だけれど、ベティ・エドワーズの『脳の右側で描け』という本がある。
その基本的なスタンスは
「絵を描くのはそれ単独の技能ではない。輪郭を取る能力や、被写体の部分部分のサイズ比を把握する能力など、複数の技能の総合力である」
……ということだ(超意訳した)。
この本にはそういったイントロ以降、それぞれの能力を伸ばすための具体的なレッスンが載っている。
ここでは模写には複数の技能が合わさってる……という要素が重要である。
ここから私が自前の脳みそでひねり出した考えなのだが、
「模写を継続してもソラで描けるようになるとは限らない。
それは何も見ずに描くための技能が、模写のための技能とは別に存在するからである」
……というものなのだった。
(大体の人は絵を練習するとき模写から入り、そこそこ上手くなったところで何も見ずにイメージを描いてみて、その出来の凄惨さに戦慄して筆を投げてしまう)
きっとみなさんは何も見ずに描くための技能について、具体的に知りたいと思ったことだろう。
一つ断ると、それはイメージをそのまま画面に投影する能力ではない。
(そもそもそんな能力を持ってたら悩まないよね)
具体的な内容ついては後述するけれど、前提として模写の能力は必要になってくる。
ここで一つ希望のある話をすると、模写に関する諸能力は練習の継続で伸ばせる。
というのも突飛な話だが技能の習得とは、脳細胞の変化という物理現象の結果だから。
『脳は美をどう感じるか』なる書籍にそうあった。
例えば左右で違うキーを弾くピアニストは、素人に比べ左右の脳をつなぐ部分が太いというデータがある。
もっと手軽な話だと、お手玉の練習を数週間つづけたら空間認識をする脳の部分が発達したという実験結果も載っていた。
(立ち読みする機会があった人、P183を開いてほしい)
模写を続けている人は、脳の”被写体の形をとる部分”などが発達してくるのだろう。
模写でもつらいよ……って苦しんでいるそこの貴方!
日々の変化は微細だが確かなものだ。
体感に至るには時間が要るが、絶対前進はしてる。
少なくとも、才能とかいう曖昧なものが全てである……という神話より救いになる情報だと思う。
もっとも……別のページには「絶対音感の習得には遺伝子が関係している?」という、分野違いにせよ微かな絶望を匂わせる記述もあったのだけれど……。
2.何も見ずに絵を描いてみる
では最終的に、何も見ず自由に描けるようになるにはどうすればいいか。
これ以降は模写ができることを前提にして描いてる。
アバウトでも形が取れたら良いので、先のベティ先生の本やポーズマニアックスなどで練習してほしい。
先に結論を書いてしまうと、なにも見ずに絵を自由に描くための技能とは……
技能とはちょっとニュアンスが異なるが、次の2つである。
①自分の好きなものを知っていて、それをもとにポーズを考える能力。
②解剖学的な知識
具体的な練習法を交えて、この2つがどう作用してくるのか解説していきたい。
練習の手順は以下の通りな感じ。
ステップ①自分の好きな絵を模写してみる。
(この時、美術解剖学の参考書を脇において人体の部位を確認しながら描く。
特に、膝の向きなどのシルエットに影響してくる部分と、じっさいにシルエットを作ってる筋肉や骨、腱を確かめておく)
ステップ②時間を置く。
ステップ③もう一度同じ絵を、今度は何も見ずに描いてみる。
(①の段階で解剖学を考えるよう勧めた。
それには次のような理由がある。
まず、考えながら描くと雑念を抱く余裕が無いので集中しやすく印象にも残る。
漫然とただ写すのも防げる。
次に、シルエットの線の性質{硬い、柔らかい、反り具合、膨らみ具合、膨らみが反りに変わる地点や、膨らみのピークがどこに来てるか等など……}は絵の印象にかなり影響してるので、そういう性質を作ってる筋肉などが何か把握できてたら応用が効く)
重要なのは計2枚描いたあとで、両者を比較して考えるということである。
実例をあげてみたい。
いいな~と思った写真を模写してみた。
模写したのが左、思い出して別紙に描いたのが右なのだった。
比較する時に見るべきポイントは次の2点。
①よく写せてる部分
よく写せているということは、よく見ているということである。
よく見ているということは、その部位が好きだということである。
少なくとも、全く興味が無いということはないだろう。
裏を返すと、自分が好きな部分を知っていればその形状を覚えやすく、見ないで描く場合にも起点にしやすいし、もちろん好みの部位をメインに描くわけだからテンションも下がりにくいということだ。
私は超脚フェチだから、脚の曲線は気色悪いぐらい似通っている……
一方、左の足首の角度は盲点だったようだし、顔、上体の角度やスカートにはあまりこだわりがないと見える。
②なんだか気持ち悪いと感じる部分
記憶から描くと、当然デッサンや形が狂ってるところもあるだろう。
そこは「見てはいたけれど、意識されていなかった部分」である。
人は脳科学的にも、すべてのものを満遍なく見てないと証明されている。
ここで重要なのはミスった部分の中でも、見ていて直感で気持ち悪いと感じた部分を見つけ、その解決策を考えることである。
(ただ、そういう部分の修正は案外難しかったり。
例えば頭痛の原因は頭にあると限らず、首や肩やもっと別の神経だったりする。
それと同じで、その部分自体には問題がなく、周囲の関係性の中で浮いて見えている可能性がある。
私に限っては、そんなとき解剖学を振り返ると問題を解決する新たな気付きがあった。
特に肩とかは胸と連動してるし、改善にかなり苦労した記憶がある……)
ここで、なぜ気持ち悪い部分だけ重点的に見るべきか。
それは、差異があっても問題の見えない部分は、描き手にとってあまり重要でない領域の可能性が高いからだ。
引き算の理論で、そういう部分は抑えたままの方が魅せたいものが引き立つ。
私の絵の場合スカートが該当するだろう。
コレ自体は違和感ない(と思いたい)けれど、仮にスカートに正確すぎる質感を入れてたら、無駄に目を引いて脚線の良さを損じていたと考えられる。
気持ち悪い部分……右の絵だと、上体のひねり具合に対して脚が前に出て見えるのが気になるかもしれない。
足首の角度も描き直したい感じ。
そういう部分を記録しておいて、自由に描いた際に、見本なしでも違和感を解消できるよう備えるわけである。
まとめると
描いて、もういちど見ずに描いて見比べる。
その際よく描けてるところとパッと見変だと思った部分に注意してみる。
……ということになる。
これを好きなポーズ、または好きな体の部分をメインにしたポーズで繰り返す。
好きなものなら頭に残りやすいし、そうやって覚えることに慣れていったら、新しいものを覚えていく負担も少しずつ減っていく。
ポーズの引き出しが増えたら、それらをアレンジして新しいポーズを作れるだろうし、その過程で解剖学的な知識が役立つだろう。
私自身この方法を実践&継続してその効果の程を記録したいし、片手落ちの部分があれば追記改良していきたい。
(とりあえずこの阿呆のいうことは脇において、将来こいつがメチャうまくなったら真似する……という流れが懸命かもしれないのは内緒で)
ずいぶん長く書いてきた。
読む人を意識して書くことに慣れていないため、ここまで読んでくれた中には息も絶え絶えの人があるかもしれない。
ともあれ、目を通してくださってありがとう。
最後に、今まで勉強してきた中でおすすめできる参考書を紹介しておきたい。
『羽山淳一 アニメーターズ・スケッチ』
ベテランアニメーターである羽山淳一氏のラフスケッチ集。
シンプルな線で描かれた非常に生き生きしたサンプルが大量に収録されてる。
①線が少ない分、回転数アゲアゲで模写できる。
②ラフなので、プロがどんなところに補助線なりを引いて描いてるか観察できる。
③躍動感ありまくりで単純に見ていて楽しい
……など用途も多様なのだった。
それに「一連の動きを描く」という点でアニメーターは模写が効かないので、原画マンはほとんどモデルを見ずに描いているわけである。
それもデッサン的に破綻しない3D形状を意識した上で。
そういう側面も含め参考になると思う。
『ソッカの美術解剖学ノート』
この本はお値段が張る……。
7000円ちょっとする。
しかし、内容は金額に釣り合って余りあると感じている。
事実、私はこの本のおかげでかなりレベルアップした。
特に参考になったのは、男女の外見上の性差がどのように生じているかという部分。
また、肩の挙動や手の標準形なども相当に詳しく解説されている。
体のある部分がなぜそのような構造になったか、また、どのように機能しているかなど……そういう部分までみっちり知りたい神経質なA型気質の人物にはマストの参考書だと思う。
ちなみに7000円とはいっても650Pほどあるので、これは標準的な参考書3~4冊分に相当してる。
「~の描き方」と銘打って、中身はほぼその絵師さんの画集とかイラストブックみたいな本も多い昨今。
内容の詰まった参考書を数冊同時購入してると考えれば、高価なものに手を出してるという後ろめたさが薄れるかもしれない。
ただ、厚さが厚さなので、初めてこういう系の本に手を出すなら、1500円前後で薄いタイプのものから触ったほうが手堅い事も否定できない。
『美しいポートレートを撮るためのポージングの教科書』
写真の参考書というのは案外盲点かもしれない。
同じ条件で撮れば同じ写真が撮れるという点で、写真の世界では、撮影に至るまでの思考過程が相当に重要な要素となっている。
ポーズの良し悪しの判断基準や、重心の取り方などについて詳しく書かれた内容。
そのためイメージオンリーでなく、理屈からもポーズに迫りたい方におすすめできる感じである。
それではまたいつか