乳牛少年―メイキングを添えて
友だちにお贈りしたイラストなのでした。
今年は乳製品や牧場参りに力を入れたいと以前から仰っていて、そういう折にちょうどいい感じの絵が届いたとすごく喜んで下さって、私は嬉しかったです。
特製の額まで作って飾って下さってて、感謝感激なのでした。
せっかくなのでメイキングも記録に残しておきたいです。
○初期案
最初にいくつかのことは決めておきました。
制約がある方がむしろ自由になれるという、ちょっとした矛盾ですね……。
今回の課題は以下の通り……
●乳牛のコスプレをした少年
●チョーカーとベルが見える姿勢で、できれば脚にもこだわりたい
●人物が中心
●丑の字を入れる
邪魔が入らず集中できる風呂につかりつつ、ボールペンで案を練りました。
こういう場合は修正できないほうが良いです。
私は人物を主体に描く時は、それ以外のすべての要素が人物を引き立てるように配置したいと思うタイプの人間です。
今回は体の曲線を引き立てるために、人物の後ろに直線的な丑の字を置きました。
曲線と直線は引き立て合いますから。
また、円形で字を囲みつつ、円を人物と重ねることで全体のまとまりを取れないか考えました。
そこからは、正月っぽく字を赤で目立たせるとして、それなら外側は補色に近い青緑かな……といった風に、割と滞りなく構図ができてきました。
○下書き
想像で描いたポーズは、それと似たものを資料や写真をあさって修正や改善するようにしています。
今回のポーズも類似した写真を見つけたのですが、望遠気味の視点で平板な印象だったので、それをもとに手を加えることはしませんでした。
そこで、右脚が手前に出る感じにサイズ比と遠近感を調整しました。
デッサンを維持しつつ嘘をつく秘訣は、体の各部を二次元的な形状と見て、それらが左右対称だとか、有機的な構造として不自然でないように気をつけながら誇張していくことです。
○コピックでの試し塗り
ちょっと試し塗りするのにも、コピックは便利ですね。
○水張り
今回はあまり水を使う塗り方はしない予定だったものの、たわんだら嫌なので水張りしました。
マスキングテープで囲っているのは、塗り終えたあとに剥がすと枠が白く抜かれて、完成度が上がって見えるからです。
水彩紙にはアルシュの中目を使いました。
○線画
以前から悩んでいたことなのですが、彩色すると線の印象が弱まるんですよね。
これはモノクロ写真がカラーに比べてエッジや形状の印象が強まるのと同じで、避けがたいことなのです。
私は線にこだわりたい気持ちが強いので、今回は描画にかなり太いマルチライナー0.7をほとんどの部分に用い、円の背景やごく細部に0.3を使ったのでした。
彩色には線を隠さない透明のものを多く採用し、色自体の彩度は全体的に控えめにして、線画を活かす感じの采配にする予定です。
転写にはブルーのチャコペーパーを用いました。
大体の輪郭を写したあと、薄いシャーペンで細部を描き込みペン入れします。
○彩色
画材には主にセヌリエの水彩を用いました。
個人的には色数を抑えたほうが好みで、今回もそんな感じに。
使った色は以下の通りです。
●肌、丑の字:オーレオリン+オペラ
黄色というと透明感のある印象ですが、案外不透明~半透明のものが多く、それらを使うと線画を隠してしまうので、今回は肌色の混色にオーレオリンを用いました。
オーレオリンは透明度の高い、寒色よりの黄色です。
肌にはうんと薄めたものを使い、肌影の部分には、オレンジ寄りに混合したものにバーントアンバーを少量加えました。
肌の影は、物体同士が狭まって特に暗く見えるオクルージョン・シャドーに絞って入れ、ぼかしやグラデはあえて用いませんでした。
丑の字が、この絵では一番高彩度な感じでしょうね。
文字が目立てば人物の曲線も目立つので、目的にかなっていました。
字の暗部にはアクリル系の暗赤色を使っています。
●円内部の暗色:アリザリンクリムソン+セヌリエグリーン
両方ともステイニング系の発色が強い色で、なおかつどちらも透明なので、混色すると不思議な深みのある暗色になるので重宝しています。
今回は色の対比のためにクリムソンに寄せました。
●外の青緑:ターコイズブルー+ネープルスイエロー
赤系統の色を透明色にしたので、透明感でも対比を作ろうと思い、不透明に近い2色をピックしました。
実物は青緑の部分が枠のようになり、赤い暗部に吸い込まれるような印象を生じさせています。
暗部の青緑には、上記にペイニーズグレーを混ぜています。
●ぶち模様:ペイニーズグレー
この部分まで混色で作るともっさりしそうなので、潔くペイニーズグレイを使いました。
単体でも味のある色味で好きです。
●ベル・文字など:グリーディ・ゴールド
ミニチュア塗装用の金属系塗料で、貪欲と名付けられてるだけあってギラギラ光る金色なのでした。
やはりこういう塗料が使えるのもアナログの良いところなので、積極的に用いていきたい感じです。
○仕上げ
マステを剥がし、裁断した状態です。
裁断作業が一番緊張します……。
その後、つや消し+UVカットスプレーを塗布しました。
あとは、目や金の部分など目立たせたい場所にグロスバーニッシュを塗り、仕上げに水彩用の保護ワニスを塗布して完成です。
スキャンについては色味や質感を完全に再現できないし、アナログ独自の工夫などは伝えようがないので、そのあたりは実物を持ってる人が楽しめる特権だと割り切って、こだわった設定はしていません。
今回の絵の改善点はというと、脚が若干赤みがかったことと、青緑の下部にムラってるところができてしまったことでしょうか。
思い切って大きめの筆を用い、混色した絵の具も多めに用意しておくようにしたい感じです。
おまけ
久々の彩色も楽しかったので、また折を見て次に取り掛かりたい感じですね。
それではまたいつか